感情と運動


ちょっと前に著者にご恵贈いただいたもの。ありがとうございました。5月のイベントの準備のためにしっかり味読できていなかったが、明日の準備のために、今回はきちんと通読。


やはり圧巻は大学での身体知実験授業を扱った最終章、ということになるのだろうが、そこでも繰り返し強調されているのは、精読と身体知教育が相補的で、お互いを高めあうような関係にある、ということ(262頁あたり)。やや袋小路的な洗練を続けているような気がしないでもない文学研究の現状を打開しようという著者の意気込みが伝わってくる。しばしば感じるのだが、この書き手自身にも、ある種メラーズ的なリーダーシップ、「優しさが持つ勇気」のようなものがあるように思えることがあり、(たぶん著者は嫌がるかもしれないが)、そういう連想ってしばしば不可避ですよね、と思う。


ということとは別に、最終章の実験授業の成果ばかりが口コミ的に強調されると、それまでの部分、特に、2〜4章におけるロレンステクストの精読が非常に優れたものである、という端的な事実が見逃されてしまうかもしれないので、ここでメモ。


特に、2、3章における作者の人性、作品の時代背景の歴史化(とりわけ、戦争の悲劇、階級の悲劇、メディアの悲劇と列挙する部分)は単純に勉強になり、同じ時代のほかの作家を研究する学生さんにとってもかなり参考になるのではないだろうか。個人的には、ロレンスの絵画を熱っぽく論じる部分が「こういう見方もあるのか」、と思わせて(というのは、これまでどちらかというとこのトピックには多少偏見をもっていたから)楽しかった。


文学教育における著者の実験は今後も継続中とのこと。これからどんな新しい可能性が切り開かれるのか、ますます楽しみ。