唐獅子

ひさびさに上野に行き展覧会。国立博物館の「皇室の名宝」展第一期、これは電車の広告などで夏ぐらいからさんざん宣伝していたので、狩野永徳の例の『唐獅子図屏風(右隻)』くらいはぜひ見ておかないとなあ、と思って行った。いろいろあって午後からいったので、展覧会場のなかはけっこうな人出で、特に伊藤若冲の作品のまえは人の頭ばかりで落ち着いてみることができない。


若冲については、例の『奇想の系譜』の初版が出たのが1970年だそうで、一般の人気が爆発したのは2000年の京都での展覧会だったという。もはや今では押しも押されもせぬ江戸絵画の大家になった観がある。僕は京都のやつは行っていないけど、2006年のプライスコレクションは見ていて、いわゆる「奇想」の面白さ(若冲だけではなくて、蕭白とか蘆雪とかも)は堪能した覚えがある。『動植綵絵』ははじめて。だが、ものすごい人気にはちょっとひいてしまう。たしかに凄い技量の画家だが、その凄みにはやや人を怯ませるものがあるような気がする。もっとユーモア精神に富んだ作品だと、そういう「渾身」という感じの身振りから少し力が抜けて、もっといい感じになると思うんだけどねえ。そういう意味で、『野菜涅槃図』みたいなもののほうが僕は好きです。


対して、永徳の屏風は想像していた以上に大振りかつ無骨な筆遣いでいかにも「武士」という感じでたのもしいほどに無意識、酒井抱一の『花鳥十二ヶ月』は相変わらず肩の力の抜けた優雅さ(とりわけ、柿を描いた10月の軸がよかった)、ひさびさによい日本画を見た気になる。展覧会自体はというと、後半部分はほとんど皇室所蔵のお宝ばかりで、象牙を彫って作った人形とか、巨大なガラスの器とか、ものすごいお高いのでしょうが、いまのところ工芸品にはそれほど関心はないので、軽く流す。たぶん永徳の唐獅子が一番の見もの。帰りに公園をつっきると、大道芸のフェスティバルをやっていてなかなかの賑わい。最寄駅まで戻って近くのイタリア料理屋(D's食堂)で晩御飯。おいしい。