怒れる田舎の若者たち

DVDで_Room at the Top_ (1959)を見た。予想以上に面白かったので久々にメモ。その前に見た_Lucky Jim_ (1957)よりもずっと印象は良かったが、後者がコメディ、前者はもっとずっとストレートなロマンスのでそもそもジャンルが違うのか。イギリスの「ニュー・ウェーブ」映画の走りになった作品だというはなしだが、そういえば物語の骨子が『土曜の夜と日曜の朝』にソックリ。下層階級出身の若者、うぶな恋人、年上の人妻との不倫、袋叩きにあってぼろぼりにされた後に、結婚、終わり。違うのは、前者のほうがもっと完全なメロドラマで、不倫は悲劇に終わり、結婚相手は地方の工場主の令嬢で、階級上昇譚になるところか。


あと、物語の背景に第二次世界大戦の濃い影が感じられるところも重要かと。主人公は戦争中POW(戦争捕虜)で、そのあいだに勉強して資格を取ったりしていたらしい。両親は田舎町の空爆で爆死。昔住んでいた街を訪れると、主人公の家だけいまだにガレキの山だったりする。


原作はもちろんJohn Braineの1957年の作品、Alan Sillitoeのほうの小説はそのたった一年後の出版だけど、その世界観には世界大戦よりもむしろ冷戦状態が影を投げかけていたような気がする(たしか原爆に言及しているところがあったような、うろ覚えですが)。この違いはいったいどういうことなんでしょうね。もちろん、たんに時代設定が微妙に違うんだろうけど、「戦後」と「初期冷戦」とのあいだに表象の差異はあるのか? そこに立ち現れる男性性のあり方の違いとか。*1


監督はJack Claytonという人で、ほかにはHenry Jamesの『ネジの回転』の映画化(_The Innocents_ (1961))とか、あと実はScott Fitzgeraldの_The Great Gatsby_の映画版(1974)もやっているという話なので、かなり文学に縁が深い監督さんみたいですね。主人公と人妻の不倫のところとか、雨がざあざあ降っていたりして、そういうシーンにはたしかに文学臭を感じました。いい意味で。


ちなみにこの映画、邦題は『年上の女』というらしく、まったく原形を留めていない……。しかも調べてみると、なんと福田恒存訳で1963年に河出から翻訳も出ている。こういうのがブームだったんでしょうかね(ちなみに、Amazon.jpで日本版が出ていないかいま検索してみたら、ぜんぜん違うジャンルのものが大量にヒットしました……)。英国での公開当時は15歳以下立入禁止だったとか。いろいろな意味で時代を感じさせられる映画でした。

*1:ここで思いつきで「初期冷戦」と書いてみたのは、冷戦ももう少し進むとスパイスリラーの文脈でジェームズ・ボンドみたいな男性像が出てくるから。紳士の装いはしてるけどワーキングクラス出みたいな男性臭の落差で惹きつけて女をたらし込む、という点ではBraineやSillitoeの主人公との連続性も見出せそうだが、ボンドの場合、彼はもはや田舎者ではない。単に景気が良くなっただけかも。