弁護に立つ

ランポール弁護に立つ (KAWADE MYSTERY)

ランポール弁護に立つ (KAWADE MYSTERY)


昨晩一気に読了。夏ごろに訳者よりご恵贈いただいていたのだが、夏中は日本に居らず、最近まで事務仕事で手に取れる時間がなかった。少し余裕が出来たのでさっそく手に取ってみたらこれがめっぽう面白い、と感じるのは、この短編集の主人公、中年の法廷弁護士ランポールの屈折した反骨精神といかにも「英国人」的な皮肉が、みょうに肌にあってしまうからなのかもしれない。*1


なかでも興味深かったのはふたつ目に収録された「ランポールとヒッピーたち」だった。普段はロンドンのオールド・ベイリーで刑事事件の弁護に立っているランポールは70年代初頭のある日、英国西部の海岸沿いの田舎町での巡回裁判に呼ばれる。被告は当時のヒッピーコミュニティに属する国語教師の美少女で、大麻取引の囮捜査にひっかかった。この二人、「古い権威」と「カウンターカルチャー」で反発しあってもよさそうなのだが、「詩」という共通の趣味を見出したランポールは年甲斐もなく彼女に惚れてしまい、なんとか無罪にしてやれないかと哀しくもおかしく奮闘する、という話。田舎町ではランポールの第二次大戦中のかつての戦友が奥さんとパブを経営していたり、ヒッピーコミュニティが麻薬を通じて中東やアフリカ地域と結びついていたり、当時の英国が、良くも悪くもふたつの時代の交錯する状況にあったことが読み取れる。*2


「ランポール」シリーズはもともと70年代のTVドラマからはじまっているということで、小説のシリーズは現在も継続中だそうだ。かなり時事的な話題も盛り込んだシリーズらしいので、もしかしたら、教材としてもなにかに使えるかも知れない。*3続編が翻訳刊行されるのが楽しみです。ご恵贈ありがとうございました。

*1:さいきんでこそあまり読まなくなってしまったが、かつてのわたしはいっぱしのミステリーファンでもあったので、その愉しみの感覚を思い出してしまった。

*2:ところで、さいきん日本でもずいぶん大麻関係の逮捕のニュースが多いような気がする。当局が警戒を強めているのか、それともいつのまにか麻薬汚染がこれだけ広まっていたということなのか?

*3:ちなみに、「訳者あとがき」によれば、作者のジョン・モーティマー自身名の知れた法廷弁護士で、1970年にはアングラ雑誌『オズ』の猥褻図画販売事件で弁護側で法廷に立っているそうだ。私人としてもスキャンダルも多いらしく、面白そうな人物。