無名

昨晩の夜から勢いでコラム原稿を書く。短いので毎回整理に苦労するけど、経済的なスペース活用のための良い練習かな。


おもいでエマノン (リュウコミックススペシャル)

おもいでエマノン (リュウコミックススペシャル)


恥ずかしながら、日本のSF作品はじつはほとんど読んだことがないのだけど、これはそのひとつのマンガ化作品。ちょっとせつない物語になっており、やさしい絵柄とマッチしていてなかなかいいかんじに仕上がっている。主人公の名前「エマノン」は英語"No Name"を逆から読んだもので、彼女はある理由から、地球上に生命が誕生してから現在まで、30億年の「記憶」を良いものも悪いものも、すべて持っているのだ、という設定。


1960年代後半が舞台になっており、視点人物はSF好きの馬鹿正直な青年。現在からみた「ノスタルジー」と当時の人々が思い描いた「未来」像が交錯する地点で、「時間」と「記憶」のテーマをうまく演出する舞台になっているわけだ(東京タワー、月面着陸計画、原爆のキノコ雲、そして安保闘争を並列した26ページの絵がミソ)。ここにさらに、「淡い思い」や「失恋」にまつわる読者個々人のほろ苦い「おもいで」の投影と共感が折り重なる。


文化史の懐古的な視線の延長線上には、そのような特権的な時間の一点が浮かび上がるようになっているということなのだろうか。ウルフの"Anon"というエッセーのことを連想するが、あんま関係ないかもしれず、あいかわらず脈絡なし。