the burning


サッチャー政権下のすさんだ世相を背景に、パキスタン系の実業家志望の青年と、パンク風の英国人の「恋愛」を描いた不思議な映画。ハニフ・クレイシとスティーヴン・フリアーズが組んで撮ったもので、批評家受けも良く、そこはかとないユーモアも面白い作品だけど、学生受けという点ではどうだろうか、ちょっと難しいかも知れない。


ちなみに、借りたDVDには、フリアーズの初期短編映画 "The Burning" (1967)が収録されていて、30分程度なので軽い気持ちで観たが、説明を切り詰めたやや幻想的な雰囲気で旧植民地の暴動の発生を描いたもので、印象に残った。ネットの情報によると、モロッコのタンジールを舞台とした「カーフィル」*1の暴動を題材としたものだという話なのだが、作中にはその情報は一切ない。


視点はつねに小さな子供とそのおばあさん、それと召し使い、運転手の4名に注がれているが、彼らは街からは切り離されて孤立した生活を送っている。おばあさんはアフリカ生活は長いらしいが、少しボケが入っているのか、暴動発生の一報を聞いても、どうせウワサだろうと意固地に出かけることを主張する。召使と運転手はどちらも「カラード」なのだが、白人の召使として余所から連れてこられたらしく、現地の「カーフィル」社会とのつながりは一切ないようだ。そして、どうやら両親も早くに亡くして、周りのこともまったく分からないらしい小さな子供の視点が、映画の視点そのものと重なる瞬間がもっとも多い。一般人としてこのような状況に投げ込まれたら、観客である私たちも、自分たちがあたかも小さな子供であるかのように感じられるのではないだろうか。


映画の冒頭で、ベットのなかにいた子供が朝早く目を覚ますと、屋敷の外から音楽が聞こえてくる。窓にかけよった子供が外を見ると、なにもないなだらかな海岸で、ミンストレル・ショーの格好をした3人の黒人が音楽を奏でながら楽しげに踊っている。「新年のお祝いだから」、と。後半の暴動との奇妙な対照。この音楽が、不思議と耳に残る。

*1:この用語はかなり難しいもののようだ。南アフリカの一部族名とも、白人からみたアフリカの黒人の蔑称とも。この映画の登場人物たちは、おそらく後者の意味で使っているのだろうか?