フーリガン

フットボールファクトリー [DVD]

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借りて観る。テーマがテーマだけに暴力シーンはある程度予想の範疇だったのだが、セリフに入ってる罵り言葉の多さが凄くて、なんというか、思わず、「なつかしい」という気分になってしまった。いや、自分がそういう言葉を使っていたわけではなくて、約一年ほど、そういうイギリス人の隣に住んでいたことがあるのです…いやー、にぎやかな男だった。その男はさいわい「フーリガン」ではなかったと思うが、「飲む」「吸う」「罵る」の三拍子がそろいにそろって、まあそれはそれは筆舌に尽くしがたく、一言で言えば、すごかった。性格とか、表情とかは、映画のキャラのなかでは、「ビリー」によく似てる(ちなみに、いちばんクレイジーなキャラクター)。乱闘シーンさえ差し引けば、地元のパブって、ああいう感じのところもあったように思う。そういう意味では現代イギリスの雰囲気をよくつかんでいるのか? いや、額面通りのリアリズムではないのだろうけど。


映画自体はというと、監督自身がメーキングフィルムで言ってるとおり、「男同士の絆」の話。男だけの「軍団」を作って乱闘に喜びを見出すというのは、たしかに、とても「ホモソーシャル」な行為なのだろうな、と納得。かたや、主人公の友人が中産階級出の彼女にとっつかまって、気が進まないながら両親と会う場面があるのだが、そこで、いわゆる「労働者階級」的な視点からミドルクラス的な「気どり」というか、抑圧的なものを批判させるシーンがあり、考えさせる。あいつらに比べたら「フーリガン」は「正直」なだけなのだ、と。どちらもカリカチュア化されていることはたしかなのだが。


もう少し印象を追加しておくと、第二次大戦時の「英雄」のじいちゃん二人組がいい味を出している。現代のフーリガンたちは戦時中の軍隊経験に漠然とした憧れを抱いていて、敬意をもって彼らを遇しているのだが、そのじいちゃんたちのほうは、フーリガンたちを「ファシスト」と言って嫌い、陰鬱な英国を抜け出して、日差し溢れるオーストラリアで送る予定の余生だけを楽しみにしてる。話し言葉の違いのコントラストも強調されるし、世代経験の差異を通じて、現代の問題をある種の歴史的視野に収めるための重要な道具立になっている。


というわけで、個人的な思い出を交えて、けっこうおもしろく観た。87分と、長さも手頃。つぎは『フーリガン』と見比べてみたい。