鏡と物語

The Facts Behind the Helsinki Roccamatios

The Facts Behind the Helsinki Roccamatios


やっぱり最近疲れが溜まっているのか、水曜日・木曜日は帰ってくるなりふとんにバタンQ(←という表現はなんとも古風なのだが)。来週さえ終われば……。


そういえば、どこぞでどなたかが書いていたような気がするが、いくら忙しいといっても、ある程度コンスタントに本を読まないとそのうち体が欲しているような気がしてくる。なんだかメンタルヘルスに悪い。


ブッカー賞作家であるヤン・マーテルが賞を獲る10年ほど前に出したデビュー短編集。まだ若い作家が短編という形式を使っていろいろ実験しながら文体練習をしている、というような感じ。収められた4編のどれも、病(AIDS)・戦争・死(刑)など、比較的重いテーマを扱っているが、_Life of Pi_におけると同じく、視線がとてもcompassionateで、暖かみのあるユーモア感覚が持ち味。それでいて、これらの物語のどれも「語るという行為」そのものを巡る寓話的な省察のようにも読める(といっても、マーテルは抽象的で難解な理論を振りかざすような作家ではない)。具象性に富んだイメージ感覚が優れている。


最も良かったのは最後の "Vita AEterna Mirror Company: Mirrors to Last till Kingdom Come" 。1人暮らしの祖母の家を訪れている語り手は、物持ちの良い祖母の物置のなかでたまたま「自家用鏡製造機」なる架空の機械を見つける。鏡が工業的に大量生産されていなかった祖母の若い頃(大恐慌の時代と重なる)には、だいたいどの家庭でも鏡はこの自家用製造機で作っていたのだ、という。原材料の "high-grade liquid silver" と "high-grade oil" を入れて、蓄音機についている拡声器のようなものを取り付けて、さて、この機械の原動力となるのは…というのが話のミソ(なのでここには書かないでおこう)。


記憶とモノ、というテーマでなんか書こうかな。