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世界文学空間―文学資本と文学革命

世界文学空間―文学資本と文学革命


The World Republic of Letters (Convergences: Inventories of the Present)

The World Republic of Letters (Convergences: Inventories of the Present)


最初アメリカのAmazon.comのほうでこの本の紹介を見ていて、ああ面白そだな、メモっておこう、とはまぞうで検索を掛けたら邦訳が出てきて驚いてしまった。なにしろ、ハーバード大学出版局から英語版(ハードカバー)が出たのが2005年なのに、藤原書店が邦訳を出したのは2002年、もう5年も前のこと。原書より先に邦訳が出る、そんな奇怪なことがこの世に果たしてあるだろうか。


と不思議がっていたら、なんのことはない、この本はもともと英語ではなくてフランス語で書かれたもの、原書は1999年に出ている。つまり、英語圏には6年かかってようやく導入された本が、日本はもっとずっと早くに紹介されていた。訳者は、原書で400ページもある本をたった3年で翻訳・出版した。改めて日本の翻訳産業の優秀さを再認識させられた。


Amazonの紹介によれば、この本は、フェルナン・ブローデルピエール・ブルデューにインスパイアされて、「世界規模」での文学作品の生産・流通・価値評価のプロセスに潜む政治的・経済的確執に焦点を合わせてそれをダイナミックに描き出そうという野心的な試みであるらしい。「文学のグローバリゼーション」と言えば聞こえは良いが、そのようにして成立した「世界文学空間」は、文学の「普遍的価値」を謳い上げるものでもなければ、多文化的な背景を持つ様々な諸作品が豊穣に混交を遂げる幸福な「るつぼ」でもない。実際問題として、グローバルな地平での文学作品の「価値」の生産を決定づける要素としての「文学資本」は不均衡・不平等に配分されており、なかにはある種のヒエラルキーも存在する。そのような制度における歪みが文化的な価値の生産・再生産の過程を絶えざる確執と闘争の場へと変えている。欧米圏に集中して存在する国際的なメディア・コングロマリット、「権威」ある文学賞の数々、言語的資源の不均衡な配分(「英語帝国主義」)、そして翻訳の問題…。とまあ、そういう形でのグローバル化は刻々とこれまでのナショナルな読書空間の境界線を侵食しているし、そのような状況下では、書物を読み、解釈するというごく単純で基本的なはずの行為も、もはや無色透明のものではありえない。


エディトリアル・レヴューによれば、ペリー・アンダーソンは「これに類する試みはこれまでになされてこなかった」と述べているし、テリー・イーグルトンもまたこの本は「現代の文学思想の歴史の里程標」だ、と讃えている。書評ではデクラン・カイバートやブルデューご本人もお墨付きを与えている。ただ、どちらかと言うとこの本は決定的な権威というよりは、新しい議論の場を切り開き、刺激するような仕事であるようだ。うーん、書いているうちに実際に読むのが楽しみになってきたな。いつになったら読めることやら…。ま、いいや。とりあえず_New Left Review_に載ってる短い論文のほうを手始めに読むとしよう。


ちなみに英訳版は2007年4月にペーパバックが出る予定。著者は(パスカル+カサノヴァというなんか凄い名前だけど)女性、パリ第一大学の研究員のかたわら、フランスのラジオで文学番組のディレクターもやっているらしい。もう一冊の著書はベケット論で、この英訳にはイーグルトンが序文を寄せている。