百万羽のペンギン

http://books.guardian.co.uk/news/articles/0,,2003520,00.html



『ガーディアン』2007年2月1日の記事。英国出版大手のペンギンとレスターのデ・モントフォート大学の創作コースの共同による新しい文学実験について。その名も「ウィキ・ノベル」。作業の要領としては、ウィキペディアみたいに誰でもアクセス・投稿・修正・推敲できるサイトを開設しておくのだが、そこで執筆されるのは百科事典ではなくて、一冊の小説。原理的には誰もが新しい設定・登場人物・物語を付け加えることができる。


ロラン・バルトが「作者の死」を宣告したのがずいぶん前のことになっても、「個人的な営為としての創作」というロマン主義的な前提はしぶとく生き残っているもので、ただ一冊の小説が、それぞれに個性や文体を持ち、それぞれ異なる価値観を持っているはずの個人たちのチームによって実際に執筆される過程を想像するのはかなり難しい。この小説の内容そのものよりも、こんなコラボレーションが実際に機能するものなのか、そして、「協同創作」が機能するとしても、その成果にどれくらいの市場価値があるのか、そういうメタな部分のほうが気になってしまう。


この記事も、「作家志望の参加者たちは自分のエゴをちゃんと抑制できるか?」みたいな書きっぷりになっている。この創作のプロセスをつぶさに観察して分析したら、ウェブを通じて可能になる(と思われている)コラボレーションの実態についてある程度興味深い報告が得られるかもしれない。おそらく主催者も、面白い小説が出来上がるのを期待しているわけでもなくて、実際の目的はそこらへんにあるのかもしれない。あれっ、そういう意味での「実験」なのか?


「百万羽のペンギン」というネーミングのセンスは結構好きなんだけれど、小説みたいに古い、ある意味ではとても因襲的な形式が、新しいメディアの手続きにどこまで馴染むものなのか。言い換えると、それぞれを内部で駆動している論理はどこまで乖離しているのか。


そういう疑念の試金石として見るのであれば、興味深い企画なのかもしれないなあ。