近代化遺産


京都の南禅寺というお寺の境内をぶち抜いて通る、琵琶湖疏水水路閣。明治時代のレンガ造り。1887年の起工で1890年には竣工している。工事担当者は田辺朔郎(工学博士)。しかし、われながらもっと良い写真が撮れなかったのだろうか。


ここを訪れたのはたしか2006年12月31日。なぜ突然思い出したかというと、ここしばらくの日本橋付近の首都高速高架の撤去関連の論争を読んでいて、ふと妙な連想が働いたのである。二つの時代の刻印が目に見えて交錯する、特異なサイト。建設当時は反対運動もあったとか。毎秒2トンの水が流れるというから、実際に見てみてのダイナミズムは推して知るべし。壮観。


「近代化」にも「遺産」がある、という言い方は一見矛盾しているようでもあるが、よく考え直すと実はあたりまえ。こんな本もあるが、見ていてなかなか楽しい。加齢するモダニズム。いや、モダニズム的な視線そのものが歴史化した、ということか。


イギリスの近代化遺産 (Shotor Museum)

イギリスの近代化遺産 (Shotor Museum)

アマゾンで検索すると特に日本についてそういう題名の付いた本が90年代後半ぐらいから出始めているのが分かる。そのころポストモダンが一段落した後で、モダンへの再注目・再評価が起こっていたのかも。


しかし、だからといって明治の日本橋を景観保護の特権的な対象に仕立てあげて、戦後の東京を象徴する首都高速を撤去する、というのはやりすぎ。都市から戦後を抑圧する(文字通り「埋葬」する)。ただそれだけのために、ものすごいお金がかかる。一つの場所にさまざまな歴史の痕跡が堆積し、思わぬコントラストによってそれぞれを見慣れた日常的な風景から浮かび上がらせる、その方がやはり魅力的だ。