諸相

1999年刊。『本の周辺』という名の小さな雑誌に連載されていた短めのエッセイを20編ほど集めて構成されているので、首尾一貫した本格的な論考としては読めないが、例えば「貸本屋」「分冊出版」「チャップブック」「リトルマガジン」など、それぞれのテーマ別に基本的な情報を整理しておくのには便利で良い本。「ホガース・プレス」や「タウシュニッツ」についての小論なんてのもある。


 著者は序文で「文学が生まれる『場』」への関心をあえて簡潔に表明している。この「場」という表現をもう少し理論的なやり方で詰めようとするとほぼ確実にブルデューみたいになるのだと思うが、それはともかく、この関心の持ち方には率直に共鳴。

文学が生まれるには、ひとり作者がいて作品を書けばよいというものではない。作者が作品を書くにはそれなりにふさわしい「場」というものが必要である。たとえそれがふさわしくなくても、そこから作品が生まれてくるなら、まぎれもなく作品成立の「場」であるといってよい。*1

*1:同書鄯ページより引用