今年の展覧会ベスト10

 だいぶ体調が良くなってきた。さてはモツ鍋が効いたのか?酒で相殺しているような気がしないでもないが…。


 それはともかく、巷のクリスマスシーズンも無事に過ぎ、いよいよ年末休暇気分に本格的に突入。年越しで続くやつを除けば特別展などもあらかた終わったようなので、今年の展覧会ベスト10をメモっておくとしよう。といっても、僕が見に行くようなやつはオーソドックスだし、好みもそれほど広くないのでかなり偏っているような気がしないでもない(結構人気があったやつを見落としていたりする)。まあ、次年度以降は好き嫌いをなくして、もっといろいろ見てみたいな、と。つまり個人的な備忘録。


 以下、列挙するが、順番はあまり大事ではない。自分の美的基準がそれほどはっきりしている訳ではないので。あえて言えば展覧会の企画力に対する印象値が大事か。ほら、海外から美術品を選んで輸送して来るってエライ大変そうでしょ?いっつも感心して見ているんですよ。そういえば、そういうもののスタッフになりたいと思っていた時期もあった。



①「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画 展」 2006年7月4日〜8月27日 at 東京国立博物館

鬼気迫る若冲の画力には打たれたが、彼の絵にはどうも見ていて息が詰まるものがあるような気もした。それとの対照で、むしろこの展覧会では曾我蕭白の傍若無人な荒々しさ、酒井抱一の優美な繊細さなどにより強く惹かれた気がする。かつての日本家屋内の視覚環境を再現するために照明に凝らされた工夫が良かった。とても美しい屏風が何点か見られた。


②「大竹伸朗 全景 1955−2006 展」 2006年10月14日〜12月24日 at 東京都現代美術館

性急に理解したとはとても言い切れない、それほどの衝撃。なのでかえって一番には持って来れなかった。まだまだ現在進行形の画業から今後も眼が離せないだろう。これからどんな展開を見せてくれるのだろうか。


③「プラド美術館 展」 2006年3月25日〜6月30日 at 東京都美術館

これはやっぱりオーソドックス。まだマドリッドには行ってないが、いつか危険を冒してでも行ってみるべきか。フランシスコ・デ・スルバランの「神の愛の寓意」(17世紀中頃)が印象に残る。*1ティツィアーノの「アモールと音楽にくつろぐヴィーナス」(1555)には思わず笑ってしまうほど濃密なエロスが込められていて、「ちょっと、こんな絵を展示して良いのか?」と思わなくもない。


④「ニューヨーク・バーク・コレクション 展」 2006年1月24日〜3月5日 at 東京都美術館

時間がなかったのであまりゆっくり見ることが出来なかった展覧会。曾我蕭白の「石橋図」のユーモアが最高。人間の世界でも、獅子の世界でも、生存競争って大変ですね。


⑤「リール近代美術館所蔵 ピカソモディリアーニの時代 展」 2006年9月2日〜10月22日 at BUNKAMURA ザ・ミュージアム

ピカソはともかく、僕は個人的にモディリアーニのファンなので。「肌着を持って座る裸婦」や「母と子」などは、モディリアーニの作品中でも傑作の部類に入るのではないかな。モニュメンタルな静謐感と暖かい生命感が絶妙の度合いで組み合わされているんだけど、そこにはなぜか、生命のはかなさが表現されているような気がする。この展覧会は他の画家もセンスがあって良かった。ヴィクトール・ヴァザルリの「恋人たち」などデザイン的にも優れてる。


⑥「石橋財団50周年記念 雪舟からポロックまで 展」 2006年4月8日〜6月4日 at ブリヂストン美術館

これは個人的な思い入れが入っている。今年の3月、遠い親戚の急な逝去で小倉に飛んだ。その帰りにちょっと観光する時間があったのだが、ちょっと遠いし、ちょうど月曜にもかぶっていたので久留米の石橋美術館までは行けず残念に思っていた。するとその春からこの展覧会で見たかった青木繁が東京に来るというではないか。で、予想通り「海の幸」や「わだつみのいろこの宮」の前で立ち尽くした。「青木繁君は天才だと思ふ」と書いたのは夏目漱石だったけど、僕もまったくそう思う。それも、とてもレアな。そうそう、青木、って和風のラファエル前派みたいなところがあるのですよ。


⑦「エルンスト・バルラハ ドイツ表現主義の彫刻家 展」 2006年4月12日〜5月28日 at 東京藝術大学美術館


⑧「東京―ベルリン/ベルリン―東京 展」 2006年1月28日〜5月7日 at 森美術館


⑨「ベルギー王立美術館 展」 2006年9月12日〜12月10日 at 国立西洋美術館


⑩「ウィーン美術アカデミー名品 展」 2006年9月16日〜11月12日 at 損保ジャパン東郷青児美術館



さて、これと巷で話題になった展覧会とを比較すると自分の好み(偏り)がちょっと分かるような気がする。


観客動員数ではかなり上位に食い込んでいるのに僕が見に行かなかったのは東京国立近代美術館の「藤田嗣治展」と国立西洋美術館の「ロダンとカリエール展」。前者については彼の幻想的な乳白色と神経質そうな描線との組み合わせにかねてから好感が持てず、気乗りがしなかったからなのだが、今から振り返ると偏見だったかもしれず、ちょっと後悔。フジタの戦争画についてはもう一度詳しく見て考えておくべきだっただろうに。後者についてはパリのロダン美術館で見てるからまあいっか、と。安易な…。


行ったけどベストに入らないのは、生誕100周年記念のダリ展(上野の森美術館)と「江戸の誘惑」展(江戸東京博物館)。ダリはいろいろな意味でとても上手い画家で、今回も彼の技量に感嘆した。が、あからさまな「深層心理」の使用が絵画に与える物語性や、筆触の排除によるのっぺりとした画面がいまいち好みに合わない、というと、僕の美的感覚の狭さがバレてしまうか。*2肉筆浮世絵も良かったけど、いかんせん、観客が多すぎた…というのは言い訳で、単に、浮世絵を大人的に楽しめるほどまだ良く知らないのが原因なのかも。

*1:ところで、ウィキペディアのスルバランの項目には画像がこれでもかと貼り付けられていて、即席スルバラン美術館と化している。だれか熱心なファンがいるのかな。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3

*2:これとは逆に、僕はジャン・フォートリエのような画家の作品と妙に波長が合ってしまう。その好みは、冷静に考えると「訳が分からない」と言われてもしょうがないけれどね。