破綻の美学

死の欲動とモダニズム―イギリス戦間期の文学と精神分析

死の欲動とモダニズム―イギリス戦間期の文学と精神分析

ブルームズベリー、精神分析、ウルフ、ストレイチー、マンスフィールド、シンクレアそしてエンプソン、ウィリアムズまでと、著者の多彩な仕事の一端は折に触れて部分的に目にしていたものの、こうして本としてまとまり、序章とエピローグがついて一貫した仕事として読み直すと、その幅の広さと同時に、それらをまとめあげる縦糸となる(特に序章で導入される)主題の深い一貫性をはじめて認識することになり、とりわけその主題を導入する際の著者の断固たる明晰さが印象深かった(いや、とりあえず「主題」と書いたけど、もしかしたら著者の読み手としての「こだわり」と言い換えたほうがいいかもしれない)。


どういうことかというと、「破綻したもの」に対する興味や感受性というものは、もしかしたら読者としての自分自身その一端をこの著者と共有しているのかもしれないのだけど、それをここまで深く言語化しつつ歴史化する作業には注意を向けたことがなかった。この認識を前提にするとこの仕事の洞察の明晰さにあらためて打たれると同時に、自分がそうした作業を怠ってきたことにはたんなる怠慢以上の何かべつの理由があったのではないかと勘繰りがはじまる。読者自身に問いかけずにはおかない、そういう側面がある、この本を読むことは予想以上に内省的(反省的)な作業になるのかもしれない。ありがとうございました。