新興階級


昨夜帰宅後一気読み。予想よりずっと面白い、というか、あまり期待していなかっただけに。原書は1964年、イギリスが "Swinging Sixies" などといって浮かれ騒いでいたただなかに出た小説であり、しばしば異常心理モノとばかり思われているが、この物語の本当のポイントは、「新興階級」の洗練なき物質主義を体現していると目される主人公(高等教育を受けず、軍隊勤務ののち市役所でしがない事務仕事をしていたさなか、フットボール賭博のおかげで巨万の富を手にする)と、その彼に囚われる少女(中産階級の医師の娘、容姿端麗、学業優秀、スレイド美術学校に通い、CNDを支持し、年上の画家の影響で「少数者」たらんと欲する)のいたましい理想主義とのどうしようもない対峙が、誘拐・監禁という特殊な状況のなかで、ブルデュー的な趣味の政治学から、やがて暴力と性の地獄へと転落してゆくさまの描き方にあらわれた、著者の徹底的な「人の悪さ」にあるはずだと思う。この対立は、キャリバンとミランダの関係になぞらえられている。


とららえ方によっては非常に反動的なメッセージにも思えるが、当時の受容はどうだったんだろう。ちなみに、アラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』(1958)が肯定的に言及されているシーンがある。