イラストレーション
- 作者: 高橋裕子,高橋達史
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1993/11
- メディア: 単行本
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あれっ、本の画像が出ない。なかなかの美本なのに…。言葉で説明すると、表紙―背表紙―裏表紙と一枚でWilliam Powell Frithの "The Derby Day" (1858)を載せてます。いろいろ描きこまれた絵画の細部まで見れてグー。
20代の頃は僕もモダニズムの「純粋美学」イデオロギーにかぶれて、「物語絵画なんて邪道邪道」と思っていたものだが、いつの頃からか、「うーん、風俗画も悪くないよね」モードに入った。おそらく、17世紀オランダ絵画の豊穣なる世界に触れたのがきっかけだったのだろうが、その線でヴィクトリア朝美術の再評価を、というのが、この本の著者、両高橋氏の目論見のようである。そしてその目論見は、かなり成功してる。
もともと『芸術新潮』の連載だったものを本にまとめたらしく、豊富な絵画の写真がとても綺麗で良い。さらに、それぞれの絵につけられた解説のクオリティがかなり高く、本格的なリサーチの積み上げを感じる。リチャード・レッドグレイヴの『かわいそうな先生』(1844)につけた「問わず語り」の文章などけっこううまく書けていて、このトピックへの最良のイントロとして授業で読ませたいくらい。
もう少し地に足の着いたことを言うと、この本は良い教育ツールにもなると思う。一見なんの変哲もない絵画を見せておいて、その背後にある歴史的コンテクストを「実は…」と言っていろいろ探らせる。こういうのが探求とか研究の糸口になるだろうし、講義で取り上げるトピックの視覚資料にしても良さそう。ヴィクトリアンの視覚文化はもう基本的に「挿絵」的なんだよね。
ただ、見開きページからは画像が取りにくいのが難か。あと、この時代の絵画は細部まで細々と描きこんでいるから、ある程度以上に解像度の高い画像じゃないと、たんにごちゃごちゃしているだけに見えてしまう。
とまあ、ほらね。ロブスターとかパイとか、ごちそうに目を奪われちゃってる曲芸師の子供とか、これじゃあどこにいるか分からないよね。
あと、「様式」の媒介という問題に目を向けさせるには適してないかもしれない。
まあともかく、基本的に見世物(スペクタクル)なんだよね、こういう絵画って。この系譜が映画に流れたのも頷ける。展覧会で群集がつめかけて、柵を廻らせて、とかそういうやつ。ルーブルのモナリザのように。
なんとなく木下直之氏の著作を思い浮かべる。ちょっと違うか。
そういえば、今年の5月までロンドンのGuildhallでフリスのけっこうメジャーな回顧展をやっていたらしいね。行こうと思えば行けたタイミングではあったが、逃した…。
久々の旧友と会った日曜日。やはり別の業界の話が聞けるのが楽しい。