××日間世界一周

あいかわらず引越しの準備をしながら、そのあいまに軽い読書。


世界一周の誕生?グローバリズムの起源

世界一周の誕生?グローバリズムの起源


鉄道・蒸気船航路・電信網の発達過程を探ることによってグローバリゼーションの歴史を語る本。例えば、19世紀中葉にイギリスのブリストルからニューヨークまで汽船で何日とか*1、極東までの東方航路開拓と途中での石炭供給基地の確保とか、アメリカ主導の西方航路の構想とか、記述が常に具体的なので歴史的な変化の過程がよく分かる。欧米列強の日本到達と鎖国の終焉もそういうグローバル化の歴史の一部として見るとまた少し新鮮に思える。当時、日本の「開国」の報を受けてマルクスエンゲルスに送った手紙の内容が引用されているのだが、先日なんかの勉強会で話題にしていたこととリンクして、ちょっとはっとする。

1858年ロンドン、火曜日、10月8日――ブルジョワ社会の本来の任務は、世界市場を作りだすこと(少なくともその輪郭だけでも)であり、その基礎にもとづく生産を作り出すことだ。世界はまるいので、このことはカリフォルニアとオーストラリアの植民地化と、中国と日本の開国で終結するように見える――*2


つまり、この「世界はまるい」という何気ない知識が彼にとっての実感にまで高まったのは、そう昔の話ではなかったわけだ。このような「時空間の圧縮」、あるいは、ヴォルフガング・シヴェルブシュの言葉でいう「時間と空間の抹殺」の過程は、それからもひたすら加速度的に進行してきている。陸路、海路と来て、この本では空路の発達までは流石にカバーされてないけど、そのへんも興味深いね。

*1:余談だが、そのブリストルはイギリス南西部に位置し、大西洋への主要な港として古くから栄えた街。当然、帝国主義の歴史とも深く関わっており、2002年に開館したThe British Empire & Commonwelath Museumがこのロケーションを選んだのも、そういう経緯を踏まえてのことだったわけだ。もっとも、当初はロンドンの中心部に建てようとしたが反対されたとか、思うように寄付が集まらずに断念せざるを得なかったとか、他にもいろいろ理由はあるみたいだけれど。バランスにもある程度配慮した、充実した展示が見られる博物館なのでおススメ。たしか2005年の夏に訪ねた際、「日本には似たようなコンセプトの博物館はないのかな〜」と考えたのが思い出深い。

*2:同書のp.89に引用アリ。