偉大なる巨匠

 


ようやく六本木のル・コルビュジエ展に行って来た。それはもう充実した展示で、満足の2時間半、もっとゆっくり見れれば良かったのだが。以下、箇条書き。


① ところどころに設置された映像展示がとても効果的で、特にCGで再現された空間構成が素晴らしい。コロミーナも指摘してることだが、「表象のシステム」としてのコルビュジエ空間は基本的に「視覚+運動=映画的」なのだ、ということが実感できた。特に、ソヴィエト・パレス案(1930)のCGは圧巻で、実際には不可能な角度からの視線の移動をともなってはじめて知覚できるようになる空間のリズミカルな構成なんかも分かって、新しいデジタル技術の手助けを得てはじめて見出せる美点もあるのだな、と納得。


② 「近代建築5原則」、のうち、「ピロティ」はサヴォア邸ぐらいの比較的小規模な住宅を想定した原則なんだとばっかり思っていたが、マルセイユのユニテ・ダビタシオンみたいに20層ぐらいありそうな集合住宅もピロティで持ち上がっていて、びっくり。集合住宅に要する巨大な容積が妨げにならずに「交通空間」と共存するにはたしかに効果的な工夫となっているわけで、この原則にはそういう側面があったのか、と恥ずかしながらはじめて認識。


③ 都市計画はやっぱりいちばん議論を呼びそうである。最初期の「パリ計画」は、現状の過密を解決するために高層建築(デカルト式?)を沢山おっ建てて、その代わりにふんだんに緑地を確保する、というもの。理想としては分かるが、既存の建築をいったんなぎ払って都市構造そのものを変えてしまおうというヴィジョンではあるわけで、写真にホワイトを入れて過密を消してゆくコルビュジエの手つきはやっぱりちょっとコワイ。1930年代のアルジェの都市計画がある種の転換点になって、その後チャンディガールへと通じた、という説明があったが、モダニズムと地域性、というテーマとしては面白そう。もしくは、モダニズム植民地主義(以後)の問題?


④ インタビューで、コルビュジエはしばしば「生物学」という言葉を使っていた。字幕で見たので、フランス語ではなんと言っていたかは聞き取れなかったのだが、幾何学とか機械の隠喩でばかり語られることの多いコルビュジエ建築について、自分で「骨格もあり、筋肉もあり、血管も、神経も、リンパも…つまりは有機体なんだ」と情熱を込めて力説しているのが興味深い。メートル法が人間身体とのつながりを絶ってしまったからその対抗として例の「モデュロール」を作り上げたのさ、みたいなことも言っていた。基準として身体がある、と。しかし、どんな身体が基準とされているのか?ユリイカの対談での伊東豊雄の発言も参考に。ミースやグロピウスとの違い。


⑤ 全体として、「物体(もの)」としての実在感がコルビュジエ建築の魅力なんだろう、と思う。あと、予想してたよりも彼にとっては絵画制作の作業が大事だった、ということ(1920年代以降にピューリスムから大きな転回を遂げた、というのも重要なのでここにメモ)。そんな魅力を堪能できたのはしあわせな経験だった。実物もいずれ訪れたい。


ル・コルビュジエ―建築とアート,その創造の軌跡

ル・コルビュジエ―建築とアート,その創造の軌跡